|
世間の大学では概ね試験期間中もしくは終わった頃だと思うが、どうやらユウトの高校でももう少しでテストらしい。つい一年くらい前まで所属していた団体なのに、もうそんな記憶すらおぼろげである。
自慢じゃないがうちの弟はごくごく平凡な頭の持ち主で、賢くもなく馬鹿でもない。成績も常に学年で真ん中あたりを行き来していて、ちょっと優秀なものがあるとすれば国語くらいなものである。ユウトは将来国語の先生になって水泳部の顧問につきたいらしいのだが、今のままの成績では教員採用試験が不安で仕方ない。
そんな風に別に余裕のあるわけではないはずのユウトが、試験期間中だと言うのに居間のリビングで携帯電話ばかりいじっているのを、勿論姉である私はよく思わなかった。
私はといえば昼となく夜となく部屋にこもって、カタカタカタカタと大量のレポートを打ち続けているのに、こいつといえばカチカチと小さなボタンを押す音ばかり響かせおって…!!!
そもそもユウトが元来そんなに携帯電話に執着するような子ではなかったはずである。
そんな私の不満とも八つ当たりともつかぬ気持ちは、本日徹夜してレポートを提出して帰ってきた夕方に爆発した。
弟は試験期前の為に部活が休みで学校が早く終わるのをいいことに、リビングのソファに丸まって(まぁ一応日本史の教科書などを小脇に置いてはいたが読んでいる様子もなく)、けだるげに小さな電話を弄っているのである。
私が持っていたハンドバックで奴の頭を殴りながら文句を言うと、反論はこうだった。
「だって大樹さんが部活停止期間で会えないからって、一日中メール送って来るんだもん。返事返さなくてもどんどん来るし、1時間以上放っておいたら電話かかってくるし…あの人あんま寝なくていい人なのかな?俺おかげで寝不足で…」
またあいつか!!!!
ユウトの顔をよくよく見てみると、本当にその可愛いタレ目の下にはありありと隈が浮かび上がっていた。しかしどう言うわけか別段嫌そうでもないその様子に、私はこのこの天然ぶりが非常に心配になるのだった。
弟の手から携帯を素早く掠め取りその履歴を見てみると、着信履歴からメールの受信ボックスにいたるまで全て「藤堂大樹」と言う堂々とした漢字四文字に埋め尽くされていた。
メールの中にはなにやら画像が添付されているものも少なくないようだったけれど、どうしても私は怖くて開くことができなかったのだ。
昔、こんな話をきいたことがある。ある女の子が別に好きでもなかった男子にしつこく付きまとわれていて、それが嫌で嫌で仕方なかったののだが、その子は気の弱い子だったためになかなかその気持ちを切り出せなかった。いつも当たり障りない返事を返しているうちに、相手の男の子はそれを好意だと勘違いしてある日写真を添付した。その写真には、なんと天を仰いだその少年の性器が…
私は慌てて携帯電話をユウトに着き返した。ユウトはなんだかプンスカと怒っていたが、私の耳には届かなかった。
まさか、ね。
何だかもう叱るきもうせて部屋へ帰って寝ようと思い踵を返した。どうせ弟の成績だ、私のものじゃない。
その時背後でバイブ音が響いた。
「あ、また大樹さん…こんな画像まで送ってきて…こんなん俺も持ってるのに、見せびらかして何が楽しいんだか…」
私は全ての思考を停止させて、ベットへと急いだ。
No.13
|
|