■ 2017/11/23(木)
++ 【小十郎と綱元】11月23日
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「お茶です」 美しい緑をたたえた茶器と見事な紅葉の練りきりが一つ。 漆の盆のままそれらを残して、すっと部屋を出ていく背中を綱元は呆気に取られて見送った。ひょこりと跳ねた後髪、愛想のないあれは間違いなく片倉小十郎だ。だろうか。おそらく。 異母姉の異父弟。実質は他人である。けれども三人が揃って同じ主の元で集っていれば、そこはかとなく縁者の扱いになるのはわからないでもない。ないが、まぁ、そこには微妙な経緯もあり、若君の傍でぐんぐんと成長し台頭していく小十郎を見る我が父の複雑な心を理解できる綱元にも、かの姉弟(そしてその母君)には少しだけ、遠慮のような気持ちがあった。 それはあちらも同じのようで、いや姉の方はともかく、弟の方はあまり綱元に話しかける素振りを見せず、酔いの回ったじじい共に隣席へ押しやられ酒を酌み交わした際にも、静かに睫毛を伏せて盃をおしいだくだけ。若君と剣を交わす時の荒々しさを知っていたから、そうしていると端整で優美ですらある横顔にひどく戸惑った。進みすぎた酒で痛む頭を抱える翌朝、妻が鬼の撹乱などと怯えていたのをよく覚えている。 無論、嫌っているなどということはない。おそらくあちらもそうだろう。互いに伊達家になくてはならない存在となり、役割こそ違えど無茶の多い主君を支える者として、敬愛があり、尊重があり、信頼がある。 ただそう、前置きが長いのは主に似たと許してほしい、小十郎が綱元へ茶の差し入れをするというのは。まだくくった長い尾っぽ髪を揺らしていた先代の徒小姓であった頃に、案外とからかい好きの殿に命じられて彼のたてた茶の相伴に預かった、あの時以来のことではなかろうか。 「Hey綱……あ?なんだ珍しい、口が開いてるぞ」 「や、これは失敬……政宗様」 ひょこと顔を出した主は気楽な着流し姿で、綱元の差し出した座布団に胡座をかいた。好奇心旺盛な竜の目がぱちぱちと瞬く。 「小十郎だな、それ」 閉じた扇の先で示された紅葉に、綱元がなんとも曖昧模糊な声で返すと、政宗はにやっと笑って立ち上がった。あぁこれはやはりからかう気か、先代にそっくりの企み顔に苦言を呈すつもりで開けた綱元の口は、 「巷で流行りの遊びがあってな。暦を語呂合せにして楽しむもんで、商売にもちょっとした勉学にもいいってんで聞いたらこれがなかなか面白い。ちなみに今日は、いちいちにぃさんで、いい兄さんの日、ってわけだ」 鼻歌すら出そうに上機嫌な政宗を見送ってしばらく、またもぽかんと開いたままになってしまった。
*たまにはブラコン仲良し義兄弟じゃない設定で。これからちょっとずつ食事やお酒の席が増えて、お互い空気で兄弟愛を醸し出す。こういうのも書いてみたかった。
No.43
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