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小話…BASARA進撃女体化
その他つぶやき等は黄色です。





 ■ 2017/11/23(木)
    ++ 【小十郎と綱元】11月23日   

 

「お茶です」
美しい緑をたたえた茶器と見事な紅葉の練りきりが一つ。
漆の盆のままそれらを残して、すっと部屋を出ていく背中を綱元は呆気に取られて見送った。ひょこりと跳ねた後髪、愛想のないあれは間違いなく片倉小十郎だ。だろうか。おそらく。
異母姉の異父弟。実質は他人である。けれども三人が揃って同じ主の元で集っていれば、そこはかとなく縁者の扱いになるのはわからないでもない。ないが、まぁ、そこには微妙な経緯もあり、若君の傍でぐんぐんと成長し台頭していく小十郎を見る我が父の複雑な心を理解できる綱元にも、かの姉弟(そしてその母君)には少しだけ、遠慮のような気持ちがあった。
それはあちらも同じのようで、いや姉の方はともかく、弟の方はあまり綱元に話しかける素振りを見せず、酔いの回ったじじい共に隣席へ押しやられ酒を酌み交わした際にも、静かに睫毛を伏せて盃をおしいだくだけ。若君と剣を交わす時の荒々しさを知っていたから、そうしていると端整で優美ですらある横顔にひどく戸惑った。進みすぎた酒で痛む頭を抱える翌朝、妻が鬼の撹乱などと怯えていたのをよく覚えている。
無論、嫌っているなどということはない。おそらくあちらもそうだろう。互いに伊達家になくてはならない存在となり、役割こそ違えど無茶の多い主君を支える者として、敬愛があり、尊重があり、信頼がある。
ただそう、前置きが長いのは主に似たと許してほしい、小十郎が綱元へ茶の差し入れをするというのは。まだくくった長い尾っぽ髪を揺らしていた先代の徒小姓であった頃に、案外とからかい好きの殿に命じられて彼のたてた茶の相伴に預かった、あの時以来のことではなかろうか。
「Hey綱……あ?なんだ珍しい、口が開いてるぞ」
「や、これは失敬……政宗様」
ひょこと顔を出した主は気楽な着流し姿で、綱元の差し出した座布団に胡座をかいた。好奇心旺盛な竜の目がぱちぱちと瞬く。
「小十郎だな、それ」
閉じた扇の先で示された紅葉に、綱元がなんとも曖昧模糊な声で返すと、政宗はにやっと笑って立ち上がった。あぁこれはやはりからかう気か、先代にそっくりの企み顔に苦言を呈すつもりで開けた綱元の口は、
「巷で流行りの遊びがあってな。暦を語呂合せにして楽しむもんで、商売にもちょっとした勉学にもいいってんで聞いたらこれがなかなか面白い。ちなみに今日は、いちいちにぃさんで、いい兄さんの日、ってわけだ」
鼻歌すら出そうに上機嫌な政宗を見送ってしばらく、またもぽかんと開いたままになってしまった。


*たまにはブラコン仲良し義兄弟じゃない設定で。これからちょっとずつ食事やお酒の席が増えて、お互い空気で兄弟愛を醸し出す。こういうのも書いてみたかった。

No.43




 ■ 2017/5/11(木)
    ++ 【小政♀】ギャップ男子片倉小十郎(29)その2   

 

その2*小十郎の趣味と職業


「ま、まぁ?そのお礼っていうか、コーヒーくらい一緒してやってもいいけど?」
「え?……あ、JK散歩ってやつですか」
「あ゛?!」

幾分誘い方が悪かったのは認めるが、なるほど、という顔で言うことがそれか。
「アンタ何歳なの」
「29です」
二十代であの発想、おっさんすぎない?かわいいJKに誘われて嬉しくないんだろうか。
あまり乗り気でなさそうな様子に加えて、政宗が持っていたケーキ箱の寿命を考慮して、二人は駅前のベンチに腰掛けた。手の中には自販機のコーヒー。
「つか、お礼って言ったのにさ、何で俺のはアンタが買ってくれてんの?」
そりゃまあ社会人の男が女子高生に奢られるだけじゃ抵抗があるかもしれないが。礼をすると言った手前、問答無用でコインを投入された結果のこれに口をつけるのが少し悔しい。
男はいただきます、と丁寧に会釈して、政宗が買って差し出したコーヒーを飲む。
スーツとオールバックと缶コーヒー。CMみたいに決まってる。頬傷と細眉がちょっと、大分、雰囲気ありすぎるけれども。色々な意味で。
「うーん、まぁお詫びということで」
「詫び?何で」
「さっき言っていたでしょう、あらぬ誤解で迷惑してるって」
「……!や、それは」
「いや、俺もちょっと……普段はほら、この顔ですから、不審な奴の近くに立って睨むだけで十分なんです。ただ今回はあなたの殺気がすごかったのでつい」
ふへっ?失言の弁解をするはずの口から奇妙な声が出た。男はいかにも苦笑いで肩を竦める。
「あのままじゃ今にも無惨な屍が転がりかねないと思って、でしゃばりすぎました」
つまり、あの派手なパフォーマンスは、変態を怯えさせるだけでなく、というよりむしろ、政宗の暴走を止めるためだった?
目を細めてコーヒーを飲む横顔は落ち着いていて、冷静で理知的な眼差しが人波を眺めている。この男は、か弱い女子高生を助けてやろうとしたのではない。政宗がウエイトの勝る大人の男を屠ることができると見抜き、大事にならないよう動いた。
……やべぇ、大人のオトコ、かっこいいじゃねぇか。
胸の内が疼く。なにこれ、もしかしてこれが、胸キュンってやつなのか?
独眼竜ともあろう者が、こんな。いやでも。
ちらりと横目で見ると、男が目を伏せて口元を手で覆っている。目元がわずかに赤い。もしかして照れてる、もしかしなくてもまさか、
「いや本当に、思い立って喋り始めたら、周りの反応が面白くてどんどん調子に乗ってしまって」
プフッ、プススッ。
……もしかもなにも、笑ってやがった。

こいつは一筋縄ではいかない男だ。
再会してほんの10分程度話しただけで一喜一憂に疲れた政宗は、それならこっちもマイペースにやるとばかりに、尊大に顎を上げて腕を組む。
「で?アンタ一体何者。893なのか」
「ぐっ……は、っはっは!ゴホ、失礼、ぷふっ」
とうとう耐えきれず声を上げて笑った男は、顔を赤くしてぷるぷる震えている。多分あまり慣れていないのだろう、笑いの波を乗り切ろうと必死な様はむしろ辛そうだ。
「……っだよ、なにがおかしいんだよ……」
ぐもぐもした抗議になるのも仕方ない。
やべ〜〜〜もう何?笑い方不器用……くっそ……かわいい……なんかもう893でもいい。嫁にしてくれ、覚悟はできてるぜ!
政宗は政宗で心の声が漏れ出ないよう必死だった。

政宗が脳裏で咽び泣く子煩悩な父に別れを告げて手を振っているうちに、男はようやく落ち着いたらしい。はぁー、と大きく息を吐きながら、ジャケットの内ポケットに手を入れる。
今度こそ拳銃、では勿論なく、革のカードケースを取り出して、
「笑ってばかりで失礼しました。俺はこういう者です」
ピシリと角の揃った紙の束から一枚、政宗に手渡した。諭吉でも一葉でも漱石でも、黄金色でもない。名刺である。
「……片倉、こじゅーろー?」
「よく聞かれますが三人きょうだいです」
「そこよりもっと気になるんですけど」
「はい」
「この社名使って大丈夫?詐欺にしても相手がデカすぎて裁判勝てんの??」
「ん゛っ……ふふっ……IDカードも見ますか?偽造じゃない証拠はありませんが」
政宗の反応は予想していたのだろう。唖然としながら何度も社名と所属の文字をなぞる政宗の視界に、小十郎がネックストラップ付のIDカードをひらひらさせる。写真映りいいな。強面だけど。
いや、わかっている。名刺もIDカードも本物なのだろう。頭ではわかっているのだ。ただちょっと、イメージの解離が激しすぎて。
「これ、あの、赤ちゃんのオムツとか作ってる、CMバンバンやってる業界最大手の、アレ?俺間違ってないよな?」
「はい、ソレです。俺は食品研究室なのでオムツは作ってませんが」
「しょくひん」
「離乳食の開発研究を」
「りにゅうしょく」
「元は趣味の家庭菜園が高じて」
「かていさいえん??」
「究極的に美味くて安全な野菜となると、赤ちゃんがそのまま食べられるものだろうと」
飛び出すワードの数々に混乱する。
目を白黒させる政宗を見ている内はいたずらっ子のような顔をしていたくせに、
「アレルギーや好き嫌いに苦しまないで元気に育つ子どもが増えるように、俺の野菜が役立てばいいと思ってます。がんばりますので、いつかあなたがお母さんになった時には、俺の野菜を食べさせてあげてくださいね」
自身の夢を打ち明ける段になって、小十郎は照れくさそうに目を伏せて、優しく微笑んだ。

小十郎の言葉を聞いて、考えた。
腕に抱く小さい我が子。清潔なマイホーム、便利なシステムキッチンで政宗が離乳食をつくる。小さなスプーンでそれを掬って、よだれいっぱいのやんちゃな口に含ませるのは、生涯唯一のダーリン。
細い吊り眉をほにゃっとさせて笑う男。笑い方がそっくりなかわいい我が子。
「なにそれ最高じゃん……」
産みてぇ。
今度の心の声は、残念ながら漏れ出ていたらしい。きょとんと目を瞠って固まる彼に、政宗は思いきり抱きついた。


小十郎はあれはプロポーズのつもりではなく我が社の製品をアピールする営業文句でありなどと供述したが、天下無敵のJK相手にそんな言い訳が通用するはずもない。

No.42




 ■ 2017/5/10(水)
    ++ 【小政♀】ギャップ男子片倉小十郎(29)その1   

 

その1*小十郎の痴漢撃退法


通学で使ういつもの快速電車。一つ前の停車駅を出てから、妙に耳につく呼吸をすぐ傍に感じる。フゥ、フスゥ、走った後でもあるまいに。斜め後ろの気配にこめかみを引き攣らせながら、政宗は立っていた。
有名なお嬢様学校の制服を着ていると変態被害が多いと聞くが、茶色の跳ねたショートヘアで猛禽類のように鋭いつり目の政宗は、美人ではあるが近寄りがたい雰囲気でナンパも痴漢も寄せつけないで来た。
さて件の鼻息野郎は、軽い揺れではぶつからないが人肌特有の湿気を帯びた生ぬるさを無視できない、絶妙に気持ちの悪い位置取りで背後に立ち続けている。ぎゅうぎゅうに混んではいないものの、吊り革の空きはない程度の混み具合で、残念ながら場所を移るにも苦労しそうで余計に腹立たしい。
あーめんどくせぇ!いっそ触れよ。てめぇの薄皮一枚でも接触したら、その瞬間に生まれてきたことを後悔させてやる。
お嬢様が皆おしとやかで気が弱いなど幻想である。政宗は鬱憤を晴らすその瞬間を虎視眈々と待っていた。

大きなカーブに差し掛かる。偶然を装っても膨らむ気配は誤魔化せない。
ぶっ殺す。
手始めに固めた肘に体重を乗せて、
「お嬢!!」
そうそれ、お嬢の一撃目にものを見
「お嬢じゃあありませんか!ご学業無事のお勤めお疲れ様でございます!」
よ……?

低い艶声。高そうなスーツ。長い足。デカい。吊り眉細い。オールバック、頬傷!
えっ?
「しかしながらこのように狭苦しい電車になど……いつでもお申し付けくださればすぐに車をやりましたものを、まったくお嬢は奥ゆかしくていらっしゃる」
さぁこちらへ。
頬笑む男に促されて気付いた。政宗の周りには、いつの間にかエアコンの風を感じる程の空間ができている。
……えっ?
「それにしても貴女はどこにいらしてもお美しくすぐに見つけられますな。不届きな虫が悪さをしないか気が気ではありませんが、それでこそ我らがお嬢だ。親父殿も誇っていらっしゃいますよ」
一瞬前まで傍にあった鼻息荒いじっとりした熱は跡形もなく、目の前の男のさらりとした気配、ほのかに甘い香りだけが残るような世界。ここが込み合った電車内だなんてとても信じられない。
「おっと、申し訳ない。私は本日ここで降りねばならんのですが、お嬢、どうか道中お気をつけて。何かあれば即座にこれを」
深い蒼に茶の織り柄が美しい風呂敷で包まれた掌サイズの何か、そう何か……を渡し鮮やかに電車を降りて行った男の造り上げた世界に残された政宗は、身を震わせた。

いや、誰だよ!!!893の知り合いなんぞいねーーーわ!!!!

怒りのあまりに。



「えーっ!なにそれ素敵じゃないか!俺ならぜーったい、恋の華咲かせちゃうよ!」
「何でだよ!!」
既に頭に花の咲いたクラスメートの慶次がデカい体をきゃぴるん!と跳ねさせる。揺れる乳。うぜぇ。
「だーって、わかんないかなぁ独眼竜?その色男の兄さん、政宗が痴漢される前に助けてくれたんじゃないか!」
「はっ……ハァ?!」
「触られてから助けてくれるんでもよかったところを、嫌な思いする前に先手を打ってくれたんだろ?自分がいなくても変態が二度と近寄れないように、そんな小細工までしてさぁ」
慶次が指す風呂敷包み。忘れ去って夢にしたいとバッグの奥底に突っ込んだままだったソレ。嫌がる政宗を図体のリーチで捩じ伏せた慶次が躊躇いなく開いたら、
「ガブリチュウとブラックサンダーと黒飴、もうぜったいこの人いいひとじゃんか!いいねいいねぇ!あー羨ましいよ独眼竜!俺もバイトさえなけりゃなぁ…よし、明日は一緒に帰ろう!そんで色男と仲良くなろう!」
「だから何でだよ!助けるとか、893の娘だって思われてあれから電車乗りにくいんだぞF××K!!!」
「そんなの気にしなきゃいいじゃないか」
「気になるわ!大体893と知り合いなんかなりたくねーし」
「えー、その人893じゃないよ多分」
「あ゛?」
「893じゃないからそんな芝居できるんでしょ」
「テメー他人事だと思って好き勝手言ってんじゃねぇぞ」
「ていうか、どっちにしろさ」
ふいに真顔になって見下ろされる。
「助けてもらったのは事実だろ?礼の一言も伝えられないなんて、独眼竜が聞いて呆れるね」


別に真顔の慶次が怖かったとか、ぐうの音も出ない常識的な意見にへそ曲がり根性を刺激されたとか、そういうことではないのだが。
たまたま、本当に偶然に、母から頼まれたケーキを買うため寄道した駅で男を見掛けた。
あっちは気付いていなかったから、知らんぷりしてしまえば赤の他人のまま平穏に時が過ぎるだけ。それでも政宗は走って、男の腕を掴んで引いた。
「待って!なぁ、アンタ、あの時の」
振り向いた男。間違いない。細い吊り眉で頬傷でオールバックで、このすっきりした香り。
「アンタ俺を助けようとしてくれたんだろ。正直俺は痴漢なんぞ自分でギタギタにしてやるしむしろ893の娘だと思われて現状迷惑してるけどよ!でもアンタの男気に免じて礼を言う!ありがとな!」
もうやけくそである。
だがまぁ一応義理は通した。ヤキでもなんでも入れてみやがれ!
独眼竜と呼ばれる所以の無鉄砲さで胸を張って見上げたら、
「……はは、」
花弁が綻ぶような音。まろく温みを帯びた、そんな声がした。
見上げた先、目を丸くして驚いていたはずの男が、目尻を弛めて片手で口元を覆っている。
「いや、すまん、わざわざそれを?」
こらえきれない笑いに顔を背けて、ほにゃっと溶け落ちそうな甘い声が言う。
「ふふ、……こちらこそ、伝えてくれてありがとう」

あぁこの人、目の色が飴玉みたいに透き通ってる。笑うとタレ目が強調されて、あれ?なんか、おかしい、嘘だろ?
どう見ても893のくせに、笑うと可愛いとか、そんなギャップ。

No.41




 ■ 2017/5/3(水)
    ++ 【小梵】豆腐屋の伜 1-2   

 

*一個下の続きです。

あまりに穏やかな午後で、こなれた腹具合もあいまって少しうとうとしていた。
さすがにこれはまずい。時計を見ればぼちぼち買い物客が動き出す時間も近付いている。盆の中身は片付けておいた方がいいだろう。
草履から片足を抜いて立ち上がり、ふと店の戸口を横目に見ると、

金色の目玉がこちらを覗いている。

思わずびくっと肩が跳ねた。上り框の端にぶつけた膝が、ゴツッ、盛大に鈍い音を立てる。
こちらが驚いて振り向いたので、覗いていた金色目もわたわたあちらこちらに視線を揺らし、慌てた様子で一度硝子戸の向こうへ消えた。
どうも思っているより寝惚けていたらしい頭が、その人間らしい反応でようやく正常に機能する。
磨硝子の向こうには、小さな人影がひとつ。
何のことはない。磨硝子に隠れるようにして、子どもがひとり、ちょっとだけ顔を覗かせて店の様子をうかがっていたのだ。影の大きさは小十郎の膝くらいまでしかない。小さな子どもだ、小十郎が眠っているので声をかけられなかったのだろう。寝ている時も顔が恐い、姉からお墨付きを貰っている。
ともかく、軒先で泣かれたら困る。このまま帰られて、誰だか知らないがこの子どもの親やらご近所さんやらに話が広まってしまうと、もっとまずい。ただでさえ豆腐屋のどら息子と評判なところに、おつかいに来た子どもを泣かせて追い返したとあっては、姉の鬼化待ったなしだ。
「……おい。おつかいか、坊主」
いきなり近寄っては逃げられるかもしれない。とりあえずそのまま、式台の上から声をかけると、おそるおそる、また子どもが半分顔を覗かせた。
「豆腐か、揚げか」
大きな目だ。顔の面積ほとんど目じゃないかと思うほど、印象的な猫目。ひょっとして女の子だっただろうか、戸惑うほど綺麗な顔立ちをしている。
上がり口に座って返答を待っていると、意を決したとでも言わんばかりに、子どもがにょきっと顔を出した。
「おとーふ!いちょう!くらさいなっっっ!」
あまりの勢いにちょっとたじろいだ。そんな決死の覚悟で叫ばなくても。
「豆腐だな。絹?木綿?」
「?」
「いっちょう?にちょう?」
「…………?おとーふ、……」
「あー、わかった。わかったから泣くんじゃねえ」
じわーと潤んでいく金色目。ギャン泣きされたら終わりだ。猶予のあるうちにと、草履を履いて戸口へ寄り、しゃがんで子どもと目を合わせた。
「おかーさんからメモとか貰ってねえのか」
「?ぼん、これもってる」
小さな手が握っているのは、首から下げたがま口。おにぎりが弦月の兜をかぶった、地元のゆるキャラのあれ。メモが入っていれば御の字、なくても入っている金額で凡そ検討はつくだろう。
「むすびまる、かっこいいよな。中見てもいいか」
「!おーけいっ、ひあゆあー!」
え、ハーフか?
突然飛び出した英語にまたちょっとたじろいだ。子どもは逆にぱあっと目を輝かせて、おそらくお気に入りであろうがま口を差し出してくる。首に下げたままでやりにくいが、仕方がないので少しにじり寄って、がま口を開いた。
「…………これは」
一万円札。
がくっと項垂れた小十郎に、子どもはきょとんとして立っている。
身形を見れば、子どもらしいパーカーにハーフパンツだが、なんとなく、多分、よくある量販店のものではない気がする。ハイカットのスニーカーはブランドロゴつき。パチモンではないだろう。
「おとーふは?」
「あぁ……うん、おとーふな。買えるぞ」
この子ども、間違いなく、坂上の金持ちの家の子だ。母親が料理をしないのか買い物をしないのか、豆腐の値段の検討がつかなかったか。もしくは現金が手元に万札しかなくて、まぁいいかと子どもにポンと持たせるような感覚の。どちらにしろ恐ろしくズレている。
思わずそっとおにぎりがまの口を手で覆った。誰にも見られていませんように。
「坊主んちは何人で晩メシ……よるごはん、食うんだ」
「んと、ぼんとね、ははうえと、おじくはあかちゃんなの。ちちうえはわかんない」
「今日のば、よる、ごはん、は何か聞いてるか?」
「?おとーふ……?」
頭が痛い。
量はおそらく一丁で構わないだろう。うちの豆腐屋はスーパーなどのものより一丁がかなり大きい。使用人云々はこの際考えない、三人分なら充分な量だ。
問題はどの豆腐を持たせるか。豆腐屋の息子として、食べ方に合わせて種類にはこだわりたいところだが、どっちでも構わないと思う人もいる。しかしこの子どもの親がもしこだわるタイプだったら。伝え忘れならいいが、この子どもが忘れてしまった可能性もある。せっかくのおつかいの結果、万が一叱られたりガッカリされたりするとなると、さすがに良心が咎める。
うーん、唸って改めて子どもを見ると、もう一つ気付いた。
豆腐を入れる器。
まぁ、持ってきているはずもない。
一応店で用意している容器もあるが、豆腐ぴったりのサイズで蓋がないため、さすがに子どもに持たせるのは酷だろう。
……うん。
「今準備する。ちょっと待ってろ」

多すぎる金銭を持つ子どもを放置するわけにもいかず、念のため店の中に入らせた。開けっ放しだった上がり口を上って、台所でタッパー、和室からメモ用紙と筆ペンを取って、また土間へ下りる。
まずはタッパーに絹ごし豆腐を一丁。最近は絹の口当たりの方が人気があるし、もし赤ん坊が離乳食の時期ならこちらの方が扱いやすいだろう。細かい好みなんぞ知るか。ちゃんと伝えてこない方が悪い。
次にメモ用紙に筆を走らせる。品書きと値をまとめた下に、豆腐の種類がわからず今回こちらの独断で持たせたため代金は取らない、違っていても叱らないでやってほしいと綴った。
それから。少し迷ったがやはりと思いきり、いかに治安のいい地域とはいえ子どもに万札なんぞ危ないものを持たせるのは如何なものかと思う、と付け足す。
どう読んでも余計なお世話だ。お客様相手に失礼な、と憤慨されるかもしれないが、こういう事情なら両親も姉も同意してくれるだろう。代金も貰っていない、つまりは小十郎が出すことになるのだから、このくらいの忠告はさせてほしい。
「ほら、豆腐。持てるか?」
「さんくす!」
ビニール袋に入れたタッパーを渡して、がま口から一万円札を預かった。一応レジ台の前でごそごそしたフリ、そのままお札をメモ用紙で包んで折り畳む。お金を戻したがま口をしっかり閉じたら、パーカーの中に潜らせた。
「おら、おつりだ。危ないから帰るまでむすびまるは誰にも見せるなよ」
「?うん、みせない」
「転ばねえように気を付けろ」
「あいむしゅあー!」

念には念を、周囲におかしな雰囲気の人間がいないかざっと確認をして、子どもを送り出す。ぐっばーい、のんきに手を振って歩き出す背中は嬉しそうに弾んでいる。
まだ夕焼けにもならない明るい時間だし、この辺りはそれほど治安の悪い地域ではない。だからこそ親も一人でおつかいに出せるのだ。
わかっていても何となく気が落ち着かなくて、ゆったりカーブする坂を進む小さな影が見えなくなるまで、小十郎はずっと軒先で見守ってしまった。

No.40




 ■ 2017/5/3(水)
    ++ 【小梵】豆腐屋の伜 1-1   

 

*現パロ、長いので分割します

小十郎は無趣味である。
いや、無、というと語弊がある。小十郎自身は、自宅の小さな家庭菜園の世話をことのほか楽しく思っており、例えば小学生の頃クラスの女子たちが新学期ごとに回していたプロフィール帳などを今目の前に突き付けられたとして、趣味の欄に書くとすれば野菜を育てること☆とするのが適当であるだろうと考えている。書くことを求められたこともないわけだが。
しかしながら悲しいかな小十郎の領地はごくごく狭く小さい。土の様子を見て水をやり雑草を抜いて実りを収穫する、全てこなしても朝のわずかな時間で事足りてしまう。
日が高いうちは駄目だ。暦の上では春だというのにもう暑いし、一人でうろうろすると地元のじじばばから何やかやと話しかけられ使い走りにされ、ではと誘いにくる野郎どもとつるんでいれば柄の悪い連中と拳でオアソビすることになる。まったくもって面倒くさい。
結果、学校にいる時間以外は家でだらんとしていることが多い小十郎を、活発で多趣味な両親と姉が「無趣味な暇人」と捉えるのは無理からぬことかもしれなかった。
今日は確か、三人揃って観劇だったろうか。なんとか屋なんたら右衛門的な役者の舞台はなかなかチケットがとれなくて大変なんだとか。居間いっぱいに着物やら帯やら半襟やら並べて騒いで、今日の仕込が終わると早速連れ立って出掛けていった。
「あんたももう店番くらいやれるでしょ。お願いね」
鶴ならぬ姉の一声。
こうして最近では度々、豆腐屋のどら息子が留守を任されるようになっていた。

駅前からゆるく続く坂道をずっと上っていくと、電車でいうと二駅挟んだベッドタウンに通じている。これは線路が古くからある住宅地を迂回しているためであり、この間の距離は徒歩でも30分程度のものだ。
たったそれだけの距離ではあるけれど、坂道を上がるほど地価が上がり、並ぶ家の外観も変わっていく。下町からちょっとした高級住宅地へ。時代の変遷がわかりやすいので、よくカメラやスケッチブックを携えた人の姿も見られる土地だ。
その坂道に沿って、昔ながらの商店がまばらに営業を続けている。いつの間にか、ついた呼び名が「坂道商店通り」。
小十郎の家、この豆腐屋は、その坂道の半ば頃にある。ここより上にはあまり古い店はなく、そしてそちらの住民は更に一つ先の駅にある大型スーパーに行く人が多い。つまりは大概の客がこの豆腐屋を頂上に坂を上がり、そして下りていく。買い物ついでの物見客も少ない、商売にはいまいち向かない立地で、味だけはこだわった豆腐屋。仕込が済んでその日の品が出来上がってしまえば、小十郎のような無愛想が一人でも、商いに困るようなこともない店なのである。

シンと静まりきった土間は冷える。しばらく歩けば軽く汗ばむくらいの陽気は磨硝子の戸口で概ね遮られ、水気の多い職場であるから当然だろう。
小十郎は憮然とした表情のまま、その戸口を硝子半分だけ開けた。商い中、の合図である。
豆腐屋の大概の仕事は朝、そして夕方から閉店時間にかけて、父を中心に家族が行う。昼からのこの時間は、基本的には夕食に向けてちらほらとある客入りを待つばかり。その客足ももう少し日が傾いてきてからだ。子どもたちは既にどこかへ遊びに行っていてこの店の前を通ることもなく、じじばばたちは昼食ついでにどこか軒下で難を逃れている頃だろう。家族は出掛けてしまっていて、家の中も外も、ひっそりと息を潜めている。
ザリ、ズリ。チョロチョロ。
耳に派手なのは小十郎の履いた草履の音、それから流しっぱなしの水の音。なんとも長閑で寂しいものだ。
土間の奥には上り框があり、そこも磨硝子の戸仕切になっている。そこから先は居住スペース。近隣の木造平屋の商店は大概がこのような造りになっている。
上り框のすぐ右手は仏壇のある和室で、乾物屋のおばばなどはそこで日がなテレビを見ていて、客が開いている硝子戸から顔を出して大きく呼びかけるものだが、さすがに留守番の小十郎がそれをするわけにもいかない。土間をうろうろしても草履が汚れるだけで、小十郎にできることといえば八百屋よろしく軒先に出て声を張るくらいだろうが、強面のどら息子にそこまでの営業努力は求められておらず、そもそも寄せる人もいない。
結局、仕切戸を開いて和室からラジオを流し、飲み物と茶菓子を乗せた盆を傍らに、式台に腰掛けて園芸雑誌などを読む。
豆腐は好きだが、豆腐屋に思うところはない。よくも悪くも。店番も頼まれればせざるを得ないが、別におもしろくもない。ただ、無為に喧嘩をする日々にも嫌気がさした。
どうせこうして座っているだけだ。部屋でしていることをここでするだけ。あれやこれやと盛り上がる家族のエネルギーをはね除けてまでやるべきこともない。
もう少し広い畑が持てたなら。平屋の庭など拡げようもないのだが。
洗濯物干しを邪魔しないスペースで気を遣って営む己が菜園の未来をあれこれと考えながらの片手間な店番スタイルは、口うるさい姉からの文句もないためすっかり定着してしまっていた。

続く

No.39



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