2005年5月26日(木)
象徴 (平古場×知念) 【続】
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| 「………。」
今度は俺が黙ってしまった。 カップに手を伸ばしてストローを咥えた。 空気の混ざる音がして、軽く振るとカラカラと氷の振動がした。
「部活がゆくいぬ時んでぇあんすかないやんやー」 部活が休みの時ってあんま無いだろ。
沈黙を破ったのは珍しく知念で。 俺より少し先に空になったカップを同じように振る。
「まあやー。永四郎が休くさぶっきてぃとぅらさんから」 まあな。永四郎が休ませてくれねぇから。
カタンと同時に置いた同柄のカップを見比べて、口を付けた人間が違うだけのそれらから何か違いでも探すかのように、知念から視線を逸らして見つめていた。
「ゆくいびーぬてーげーは凛がわん誘い出しまたん」 休みのほとんどは、凛が俺を誘い出すんだ。 「え?」
そんなつもり俺には全く無い。 思わず顔を上げたけど知念は余所見をしていて視線が絡むことは無かった。
「…ゆすぬ奴とやくしくんでぇ」 他の奴と約束なんて 「まっちょんぬ?」 待ってんの?
俺からの誘いを。 訊こうとは思ってなかったのに、つるりと口が先走った。 他の誰と会うことも無く俺からの電話をメールを。 そういえば先週の休みは雨だったけど甲斐と遊んだな、とか思い返しつつ言葉に詰まった知念を見た。
「ちゅいで居て、わざわざわんからぬ連絡まっちんぬ?」 ひとりで居て、わざわざ俺からの連絡を待ってんの?
そろりと顔を上げた知念と目が合ったけど、ふいとそっぽを向かれてしまった。 何だ。 待ってるのか。 頭の中で携帯片手に寝転がってる知念を作り上げて、含み笑い。
「…うーゆるっとぅけよ」 放っとけよ。
知念は照れているのか拗ねているのか、こっちを見ようともせずに頬杖を付いて厚いガラス壁の向こうの雑踏を定まらない視線で見渡した。
「いかやー、いちぶさんとぅくまがあいびーん」 出ようぜ、行きたい所があるんだ
可愛くて仕方ない。声を出さずに頷いた知念のと一緒に、分別も何も無いゴミ箱へ二人分のカップを放り込む。 何処へなんて訊きやしないだろ? お前は解ってるから。 踵を踏んでいた靴をちゃんと履きなおし、鞄を持って椅子を机の下に仕舞った。 振り返って知念を見る。
「知念」 「………何、」
まだ拗ねてんの? 内心笑ってやったけど余計機嫌を損ねちゃマズイから、黙っておいた。
「いやーストローかみぬな」 お前ストロー噛むのな。
俺と知念のカップの違い。 知念は答えることなく俺を無視して歩き出した。 店を出て人込に紛れても俺が知念を見失う事は無い。
休みの日にはお前に逢いたくて、他の誰と居たって携帯だけは手放さないんだ。お前からの呼び出しを言い訳に、いつでも脱け出せるように。
ストロー噛むのって、淋しがりの象徴だって知ってた?
俺の家に着いたら、結局ご機嫌ナナメな知念に訊いてやろう。 怒らせたらなだめすかして仲直り。
長い脚で先を急ぐ知念の後ろを、今は取り敢えず足りない歩幅で追って行った。
+++++ 長い時間放置して申し訳有りません…; 二度目の凛知念SSです。
No.3 |
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