蒼い月夜にお散歩



思いついたものを思いついただけ。

詩、小説、ジャンル混在。


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2011年9月19日(月)
   歌うたいのsonetto  ..No.167
 その歌声を聴いたのは偶然だった。本拠地にしている城の舞台裏、普段は寄り付かないその場所にラオと一緒にアンネリーを探して近づいたときだった。
 はたして、アンネリーは確かにいた。アルバートやピコと舞台裏で練習をしていることが多いアンネリーはやはりそこにいたのだ。意外だったのは、そこにいることが大変珍しい人物が一緒にいたのである。
 アンネリーは熱心に彼に話しかけていた。引っ込み思案で大人しいアンネリーが自主的に話しかける相手といえばアルバートとピコくらいのものだが、その二人は熱心なアンネリーを困ったように、嬉しそうに見つめている。
 誰だ、と思う前にその人物がため息をついた。その吐息に混ざる困ったような声は、軍議中、声を張り上げて策を説明する彼からは想像も出来ないほど柔らかで優しかった。
 「仕方ない、一度だけだ」
 「ありがとうございます!嬉しい」
 アンネリーが嬉しそうに声を上げる。よほど興奮しているのか頬も上気しているように見えた。それから2,3、言葉を交わして一瞬その場が静まり返った。
 一呼吸おいて、アルバートとピコが音を奏でる。それにあわせて歌うのはアンネリーではなかった。凛としたしなやかな声だった。
 ギターの伴奏に合わせて奏でられるのは異国の歌。その歌の意味はビクトールにはわからなかった。ただ何故か、心臓を鷲掴みにされたような心持になって、歌っている彼の声が突き刺さるようだった。
 アンネリーの声が合わさって深みが増す。一曲歌い終わるまで、ラオもビクトールもそこを動けなかった。
 知ってはいた。幼い頃、貧乏だった両親に生まれて劇団で育ったことも、そこで女形をしていたことも、声変わりで音が出せなくなって劇団を去ったことも。
 道中では歌を歌って路銀を稼ぎ、マッシュの元へ流れ着いたことも。容姿と歌声で何度か無理やり囲われそうになったことがあることも。
 歌うことが、今でも大好きだということも。
 ビクトールが強請られて子守唄を歌ったときの、あの優しげな表情も覚えている。
 歌が止んでビクトールの思考を現実に引き戻した。アンネリーが嬉しそうに礼をいい、アルバートたちが驚いた面持ちでシュウの声を絶賛していた。また歌ってください、と言うアンネリーにシュウは肯定も否定もしないで曖昧に返していた。
 「シュウさん!」
 今まで呆けたように聞き入っていたラオが声を上げる。振り向いたシュウの顔が驚きに満ちていた。こんな素の表情を晒すシュウは珍しかった。今日は珍しいものばかり見ている。
 「すごい!シュウさんて歌上手いんだね!」
 「あ…いえ、昔はこれで食っていましたから」
 そうなんだ、すごいすごい!と繰り返してラオはアンネリーと同じように興奮した表情でシュウを見上げていた。
 「また聞かせてね!」
 シュウはラオの笑顔に弱い。それを知っていてラオはにっこりと笑ったのだ。
 「…また、いずれ。時間がありましたら」
 先ほどよりは少し肯定に傾いた返事をして、シュウは逃げるように舞台裏から去っていった。笑い声が起こる。いいものをみた、とビクトールも一緒に声を上げて笑った。


2011年8月6日(土)
   Last Smile  ..No.166
 最後のわがままを聞いてくれとシュウを呼び出して、二人で湖のほとりを歩く。
 重ねた情に嘘はない。少なくともビクトールはそうだったし、シュウも同じであったと確信している。彼に聞けばきっと否定するだろうが、ビクトールが感じた思いが間違いだったとは思えない。
 ほとりには人影がなかった。二人の姿を見て姿を消してくれたのだ。二人の関係がうわさになっていると知ったのも随分昔のように感じる。人がいないのをいいことに、ビクトールはシュウの手を取った。嫌がるかとも思ったがシュウは不思議とその手を振り払わなかった。
 言葉は少なかった。ぽつぽつと短い会話を繰り返すだけで静かに過ごした。心地よい沈黙がそこにはあって、ビクトールはこれが最後なのだと自覚した。
 最初から思いと言葉があったかといわれたら、おそらく否だろう。どちらかといえば反発しあっていた二人が身体を重ねたのは成り行きだった。慰めるように触れたビクトールに、シュウは抵抗しなかった。
 日暮れの太陽がゆっくりと沈んでいく水面は綺麗だった。
 今ここで、愛していると語ったら、彼はどうするのだろうと考える。できることなら傍にいて、強くて脆い彼を支えてやりたかった。彼が要らないというなら、ビクトールはそれを受け入れるしかない。それでも、彼を愛し、守りたいと思っていた。
 押し付けるように与え合って、奪うように受け取りあった恋だった。最後だろうと思える恋愛だった。手から伝わるぬくもりも彼の息遣いも、風に遊ぶその黒い髪も、何もかもが好きだった。強がりと弱さと、優しさと悲しみと、包み込むような微笑と。全てが、彼を構成する全てが。
 いつか、彼が自分を大切にしようと思えたときにまた会えたら良いと思っている。そのときはきっと、ビクトールも心ごとシュウを奪えるのだろう。
 「そろそろ帰るか」
 一時より時間が作れるようになったとは言え、彼はまだ忙しい身だ。ビクトールの言葉に、シュウは名残惜しそうに頷いた。繋いでいた手を自然に放して踵を返す。その少し後に続いてビクトールは歩き出した。
 「ビクトール」
 静かな、それでも穏やかな声でシュウが振り返る。その表情に、目を奪われた。
 「ありがとうな、今まで」
 嬉しそうで、悲しそうで、切ないほど幸せそうなその笑顔は、ビクトールの言葉を失わせた。あまりに美しい笑顔に、手放してやろうとした決心が揺らぐ。
 ふわりと両手が舞うようにビクトールの両頬に触れて、シュウの体温が近づく。
 触れるだけのキスをして、シュウはまた微笑んだ。もう抱きしめることも叶わない、愛しい存在。
 「じゃあな。先に帰っている」
 くるりと踵を返してシュウは小走りに城に向かっていった。その後姿を見送って、ビクトールはシュウのぬくもりが残る手を見下ろした。
 シュウが何故礼を言ったのか、あの笑顔をビクトールによこしたのか。その理由は、解りそうになかった。
 いつか、届けば良い、この腕も、彼のあの笑顔の意味も。
 暮れてゆく空が、本拠地を赤く照らしていた。


2010年7月22日(木)
   結果  ..No.165
「思い出したよ留!」
「…何が」
「ダンスウィズウルブズ!」
「…だから何が」



北斗の拳にも負けず検索したらしい。(実話)


2010年6月20日(日)
   一つ  ..No.164
 「なんだっけ、あの映画のタイトル」
 「はぁ?」
 唐突な言葉に疑問符を投げるも、相手はそんなことは気にすることもなく、ううん、と唸っている。
 「ほら、白人がネイティブアメリカンだかアフリカだかの民族の仲間になって…風に向かってこぶしを握る女とか出てくる奴」
 ほら、あれだって。
 一人でうんうん言いながら考え込んでいる背中。インターネットなるものを使えば一発で解るだろうに、それすら思いつかないで記憶をたどっている。
 「結構前の。文庫にもなった奴だよ」
 「そんなこと言われてもしらねぇよ」
 今目の前にある、電源の入ったパソコンがあるが、検索するのはもう少し待ってやろう。
 「ほらーアレだよー白人の軍人がさー」
 白人はわかったから。
 「あ、留、ネットで調べてよ!」
 やっと言ったか。でも、どうやって。
 「こぶしを握る女で出てくるかな!」
 …北斗の拳出てきたぞ。






 正解がわからないまま。


2010年4月15日(木)
   琥珀より  ..No.163
 それを拾ったのは偶然であった。
 拾い上げて手のひらに乗せる。深みのある茶色の塊の中に、小さな小さな虫が閉じ込められていた。
 …蝿?
 少年はそれをじっと見つめた。閉じこめられた虫が、少し動いたような気がして、少年はそれを捨てようと思った。
 捨てられなかったのが何故か、少年にはわからない。しかし彼はその塊をそっと懐にいれ、守るように服の上からそれを押さえた。
 不気味だと感じたのに、何故それを持ち帰ってしまったのか、少年自身がわかっていなかった。



出だしだけでも書いておく。


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