2008年4月10日(木)
タイトル未定【ネタ帳より】
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| 「サンジが好きなのか、ゾロ」
そんな猪突なルフィの質問に、どう答えようかと一瞬悩んだが、この男に誤魔化しは効かないと思い正直に答えた。正直に。
「嫌いだ、とは言い切れない時間が増えた」
本音を言った。人として許せない性格の男なら仲間とは認めない。同じ海賊団の仲間になるのにルフィが認めた男なら間違いないと思うし、料理へのこだわりと戦闘力には正直、感心する一面もある。ただ、好きか嫌いかと聞かれれば”嫌いなタイプの男”だったはずのサンジ。しかし一言では分類できない男だということに最近気づいた。いろんな一面を持っていて、たまに、ごくたまに、凄く居心地がいい空気を作る男だという事も知った。
好きというわけではない。でも、嫌いだとも言いきれない。正直な答えだ。
ルフィと二人きりの船番は久しぶりだ。寝転がっていたオレの横でボンヤリと座って空を見ていたルフィ。ゆっくりと時間が過ぎてゆく中、ポツリと発せられたルフィの質問に、その質問の意味に、少しだけ心がザワついた。何故そんなことを聞くんだと簡単には返せない。
大きな黒い瞳が見つめてくる。強く澄んだ想いが痛いほど伝わる。その圧力に負けてしまいそうな恐怖心まで湧き上がる。”船長命令”には絶対服従のオレだからこそ、あえて強引に事を運ばないルフィにその想いの大きさを思い知らされる。
目をそらす事も出来ず、それ以上言葉を出す事も出来ず、動かないゾロ。
誤魔化してはぐらかしているわけではない。ゾロは正直に答えている。逃げてもいない。むしろズルイのは、俺、か。一言「お前は俺のものだ」と命令すればゾロは苦笑いをして「好きにしろ」と言うだろう。初めから野望以外は命すら船長に預けると断言していたゾロだ。抱こうと思えば簡単な事なのだ。
「サンジ、か、、、あいつは不思議なヤツだよな。惹かれるのも無理はないよな」
視線をゆっくりと空へ戻し、ルフィは少しだけ笑う。
しかたねぇよなぁ、俺だってサンジに甘えてぇもんなぁ、とかすれた声でつぶやいたルフィに、ゾロはまた心がワザつく。自分ではサンジをそんなに意識しているつもりはないのに、ルフィには違うように見えている。サンジの事が好きか、と質問してくるほどにオレはサンジを意識しているということなのか。
このオレを誰よりも理解しているルフィ。ルフィの事だって一番理解しているのはオレだ。自惚れではなく、ルフィの深い想いだってわかっている。怖いほど感じている。そのオレの戸惑いを察して、何も仕掛けてこないルフィに感謝しているほどだ。
「ルフィ、オレは別に、、、サンジを、、」
いいかけた途端、黒い瞳が言葉を遮断してきた。
「追い詰めたいわけじゃない。ゴメン、責めてるわけでもない。俺のわがままだ」
ゾロは自分の思うようにしてたらいい。大剣豪として海賊王の隣に立つこと、それ以外に何も約束なんてしてない。俺のそばから離れないのであれば、俺はお前を許すよ。どんなことも、きっと許せるよ。
黒い瞳が少しだけ揺れていて。そんなルフィを見て、胸が締め付けられる。心がギシギシと痛む事を自覚した。こんなルフィを見てるのに「オレはお前のものなんだから好きにしろ」と、この身を差し出せない自分に泣けてくる。
オレはサンジが好きなんだ、とこんなせつない形で気づかされた。
「すごく、大好きだぞ、ゾロ」
やさしく笑うルフィがせつなくて。締め付けられたノドからは一言も声が出てこない。ごめんとも、ありがとうとも言えないまま、小さく頷いた。
傷つけたくない。守りたい。誰よりも大事なルフィ。あんな表情をさせるくらいなら、どんな感情だって消せる。抹消できる。サンジへの妙な意識だって、今ならまだ大丈夫。心頭滅却すれば火もまた涼し、だ。
ゾロはゆっくりと起き上がり、ルフィの隣に座ると麦わら帽子に手を置いた。少しだけ首をすくませたルフィに小さく笑いかけた。
「オレも、お前、好きだよ、ルフィ」
時間が経てばきっと、全てをお前に差し出せる日が来る、と自分に言い聞かせた。意外だという顔で視線を合わせているルフィに、ゾロはもう一度笑った。
-------------------- 続きはまた。
No.680 |
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